RAIN Side-A

CREW EDGE

 
 
RAIN
 
 

登場人物

Mikage (美影) … ヒューム女F4A 忍/戦
Tetsu (テツ) … ヒューム男F3B モンク/忍
Ray (ライ) … エルヴァーン男F2B 侍/戦
Enzo (エンゾ) … ガルカF2A 青/忍
Kira (キラ) … タルタル男F4A 黒/白


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RAIN
Side-A

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 今日こそは美影に告る、とテツが言い出してから早三週間になる。
 景気づけのつもりか、それとも自分で自分を追い込んで逃げられないようにするためだろうか。美影以外のLSメンが全員揃った時にわざわざそう宣言したテツは、それからの三週間、端から見ても涙ぐましい程の努力をしていた。──────借金をしてまで、実装されたばかりのタキシード一式を揃えてみたり。モグハウスに美影を呼べるようにと、エルメスやミスラのマネキンを泣く泣く処分してみたり。美影や俺と同じくLS古参メンバーであるエンゾに言わせれば、「努力する方向が著しく間違っている」のだそうだが。
 そもそも美影は色恋沙汰に疎い。そして、テツのことを良くも悪くも可愛い弟分としか思っていない。今から二年前、まだ駆け出しの冒険者だったテツを文字通り「拾ってきた」のは他ならぬ美影で、LSリーダーである美影は、当時はまだ生意気で鼻っ柱の強かったテツをスパルタ式にしごきつつもよく面倒を見てやっていた。鼻持ちならないガキだったテツはいつしか美影になつくようになり、そして上述の宣言に至るわけだが。
 繰り返すようだが、美影は色恋沙汰に疎い。──────正確には、自分が関わる色恋沙汰に関してだけは極端に疎い。他人の縁結びのためには奔走するくせに、自分は誰かに遠回しに告白されても気付かないタイプなのだ。美影を落としたいなら小細工をせず素直に好きだと告げるのがベストなのだろうが、どうしても見栄を張りたいテツには無理な話らしい。

 テツの宣言からちょうど三週間たったその日、俺は週一で開催されるエインヘリヤルに参加するため美影のLSのパールを外していた。美影達はエンゾの発案でウルガラン山脈に行っていたらしい。表向きはENMクエスト『唇亡びて』をやるため、だが実際は、ENM終了後にテツと美影をウルガランの山頂に連れ出し、そこで告白させてやろうというエンゾの計らいだったようだ。エンゾから腹案を聞かされたテツはさすがに覚悟を決めたようで、遥かに下界を見下ろせるヴァナ屈指の絶景を前に、「ミカゲ姐さあぁぁん、好きだああぁぁぁあ!!」と大シャウトをやらかしたらしい。その時の様子をエンゾがほぼリアルタイムで実況してくれたおかげで、俺はVampyr Jarl戦の最中に笑いすぎて色々とミスをやらかしてしまった。
 で、肝心の告白の結果だが、見晴らしのいい頂上で宴会モードに突入してからというのが致命的だったようだ。すでにアルコールの回っていた美影はテツの首にがしっと腕を回すと、ゲラゲラ笑いながら「あたしも好きだぞ馬鹿野郎〜〜!!」とシャウトし返したらしい。

Kira >> どっからどうみても酔っぱらいのタワゴト
Icchi >> うはー、テツさんかわいそす
Hikaru >> ミカゲ姐さん酔いが醒めたら何も覚えてないに100万ペソ
Enzo >> 俺これどうやって収拾つけたらいいのよ……

 一斉に届くTellの嵐に、俺はとりあえず ┐(´ー`)┌ とだけ返しておいた。

 その日の夜。
 白門に戻った俺が美影のLSのパールをつけようとしていると、テツから突然Tellが届いた。

Tetsu >> ライさん、エインヘリヤル終わりました?
>> Tetsu : ん? あぁ、さっきな。今パールつけるとこだ
Tetsu >> 今日このあとサシで付き合ってもらえません? ……できれば、パールはつけずに

 俺はリンクパールを装着しかけていた手を止め、苦笑混じりに答えた。

>> Tetsu : いいけど。何、泣き言聞かされんのか?
Tetsu >> 分かってんならハナシ早ぇっす
>> Tetsu : やれやれ………んじゃどこで落ち合おうか、酒飲むんだろ?
Tetsu >> ライさんちのモグハとかダメっすか
>> Tetsu : ヤローを家に呼ぶ趣味はねぇっつの。あそこにすっか、辺民街区のメローズ
Tetsu >> メローズ?
>> Tetsu : 知らねぇ? お姉ちゃん達がメローのカッコで接客してくれんの
Tetsu >> そんないかがわしい………
>> Tetsu : いかがわしいっつーか、ちゃんとした高級クラブなんだけどな
Tetsu >> できればその、あんま人目がないほうが嬉しいとゆーか
>> Tetsu : ボックスごとに広めに仕切られてるから心配すんな。三十分後に白門モグハ前でいいか?
Tetsu >> すんません、自分奢りますんで
>> Tetsu : 当たり前だろ。んじゃ後で


*          *          *



「俺はぁ!! あんなイイ女は他にいないと思ってますッ!! ライさんだってそう思うれしょ?」
 ぐでんぐでんに酔っぱらったテツが、しきりに人差し指を振り回しながら呂律の回らない口調で言う。
「俺に同意を求めてどうするよ」
「うあああぁぁん、姐さあぁぁん」
「きったねェな、ハナミズ拭けよお前!!」
 ライは手元にあったおしぼりをテツの顔に思いきり投げつけてやった。テツがぐずぐずと鼻を鳴らしながらテーブルに落ちたおしぼりを拾い上げる。
 テツがずっとこんな調子なのでボックス席というわけにいかず、結局二人は奥の個室を借りる形になってしまった。魔法防音の完備された部屋はフロアの喧噪を中に伝えることなく、中の騒音をフロアに伝えることもない。
「俺はッ、俺はぁ、ウルガランの崖から飛び降りるぐらいのつもりで気持ちを伝えたんすよ? それなのに姐御の馬鹿あぁぁぁ」
「飛び降りるっつーか、お前いつもあそこの崖滑り失敗してなかったか」
「あーもー、揚げ足取るの禁止!! ライさんお酒おかわり!!」
「なんで俺が!! 酒ぐらいてめぇで注げよ!!」
「メローのお姉ちゃん達どこ行っちゃったんすかぁ」
「お前が追い出したんじゃねぇか、ったく………」
 やれやれと首を振りながらウイスキーのボトルを引っ掴み、テツが手にしたグラスにドボドボと乱暴に注いでやる。
 ライは自分のグラスにも酒を注ぎ足しながら、
「飲め飲め、飲んでさっさと寝ちまえ。こっちも飲まなきゃやっとれんわ」
「ライさんお酒強いですねぇ。そういやライさんがハメ外してるとこって見たことないや」
「お前とは鍛え方が違うんだよ」
「そういうのって人間カンケイ築く上でどうかと思いますよぉ? たまにはこう、ダメな一面も見せるくらいでにゃいとですね………な、なにしてんすか」
 ライがおもむろに右手を伸ばしてきたので、テツが怪訝そうに口をつぐむ。次の瞬間、ビシッと派手な音を立ててライの必殺のデコピンがテツの額に弾けた。
「いってえぇぇ」
「ガキがえらそーな口きくんじゃねぇよ」
「ひでぇ、後輩イジメだ」
「教育的指導と言え」
「ライさんその言い方オヤジくさいっす」
「てめぇ!!」




 ────── 一刻後。

「ライさん俺ね、ミカゲ姉を守れるような男になりたいんすよ」
 幾分酔いが醒めてきたのか、随分と大人しくなったテツが、ソファの隅に置かれていたクッションを両手で抱きしめながらぼそぼそと呟く。
「守るっつーかアイツ忍者だけどな」
「そりゃ姐さんはLSのメイン盾ですけど!! そういうんじゃなくて、なんていうんだろ………戦闘以外でも色々あるじゃないですか。冒険者やってると」
「………」
「そういう時に、姐さんを守ってやれるようになりたいなぁって………姐さんあんな性格だから、何かに困ってても一人で解決しちゃおうとするし」
 テツのその言葉に、ライはちらりと片方の眉を上げた。
「お前にはそう見えるわけか」
「だって姐さんそういう人でしょ? ライさんの方が姐御と長いんだから、当然分かってると思ってましたけど」
 ライはそれには答えず、苦い笑みを唇の端に乗せただけだった。足元に視線を落としていたテツはそのことに気付かなかったらしく、テーブルの上のグラスを手に取ると琥珀色の液体をわずかに口に含み、
「とにかくもっと姐さんと組めるようにならないとなぁ………。ずるいっすよライさんばっかり、いつもいつも姐御と組んでて」
「サルベージの話なら単にお前の時間が合わねぇだけだろ。こっちだって毎回野良でアタッカー募集すんのメンドーなんだぜ? お前が固定で入ってくれりゃアイツも喜ぶと思うけどな。」
「まじっすか」
「そーそー。サルん時は美影も詩人で参加するんだし、モンク盾ならあいつを守れて一石二鳥だろ」
「そっかぁ。考えちゃおうかな、俺」
「いっとけいっとけ。下着姿が拝めるから一石三鳥だ」
「ういす」
 グラスをテーブルに置いたテツが、クッションを抱きしめたままごろりとソファーに横になった。
「ふあぁぁあ、色々話してすっきりしたら何だか……眠くなっ………」
「お前こんなとこで寝るなよ? ──────って、もう寝てるし」
「……むにゃ……」
「やれやれ」
 ライはこのままテツを置いて帰ろうかとたっぷり一分は悩んだ後、ようやく重い腰を上げた。


*          *          *



 南サンドリア──────夜半過ぎ

 テツを白門のレンタルハウスにぶち込んだ後、自国に戻ったライは、モグハウスの扉の前で自分を待っているらしきエンゾの姿に気付いた。
「子守りご苦労さん」
 片手を軽く上げてニヤリと笑うエンゾに、ライが大袈裟に溜め息をついてみせる。
「…なんで俺がお前の後始末をやらなきゃいけねぇんだ、エンゾ。テツをあおったのはお前だろ? だったら最後まで面倒みてやれよ。」
「悪い悪い。テツの奴俺に引け目感じてたみたいだしなぁ、お膳立てしてもらったのに申し訳ないとか思ったんだろうな」
「美影に酒飲ませりゃどうなるかぐらい見当つくだろ」
「うむ、アルコールを持ち込む奴がいたのは想定外だった」
「やれやれ。おかげで俺当分メローズ行けねーや」
 エンゾはくっくっと笑い、
「お前は毎晩豪遊しすぎだ。しばらく行けないくらいで丁度よかろ」
 ライはつんと横を向くと肩をすくめた。
「余計なお世話だ。──────で、何の用だ? LSでもTellでもなくわざわざ会いに来るくらいだ、テツとは別件なんだろ」
「まぁな。」
 エンゾは腕組みしながら壁にもたれかかった。天井近くに据えられたランプがやわらかな黄色い光を二人の上に投げかける。
「恋愛話に始終できれば気楽でいいんだがなぁ。………実は、白門でイザクを見かけた。」
「──────いつ?」
 ライが顔色をわずかに変え、即座に問い返す。
「昨日の夜だ。雑踏に紛れてすぐに見失ったがな。横顔を見ただけだが確かにイザクだった」
「………」
 ライが険しい表情を浮かべて宙空を見据える。
 エンゾは足元に視線を落とし、
「気になったんで、今日ウルガランから戻ったあとサラヒム・センチネルに寄ってみたんだ。大抵の冒険者はあそこに所属してるからな。…経歴は変えてあるが、登録があった。あれは間違いなくイザクだ」
「あいつも冒険者になってたのか………」
 呻くように呟くライに、エンゾはゆっくりと頷いた。
「アブクーバの話では過去の記憶を失っているらしい。腕っぷしさえ確かなら問題ないので雇った、と言ってたな」
 ライは思案気に視線を巡らし、
「記憶喪失か。周囲の目を欺くための狂言じゃねぇのか?」
「俺もそれは考えたんだがな。まぁ本人に確かめるのがよかろうと思って、直接会いに行ってみたんだが」
「なっ!」
 ライが思わず声を荒らげる。
「お前それ、いきなりすぎやしねぇ?」
「美影やお前に話した後で『別人でした』ってわけにもいかんだろう。美影は特にな」
「そりゃまあそうだが………で、どうだったんだ。奴の反応は」
 エンゾは軽く肩をすくめてみせた。
「俺の顔を見ても思い当たるフシがないようだった。あいつはとっさに演技ができるほど器用な男じゃないしな、記憶喪失というのは本当なんだろう」
「そうか……」
 ライは深い息を吐き出すと、エンゾと同じように腕を組み、向かいの壁にもたれかかった。
「とりあえず、無事でいてくれたことを喜ぶべきなんだろうな」
「…そうだな」
 エンゾの返答はどこか重い。
「美影には話したのか?」
 ライの問いにエンゾはゆっくりと首を振った。
「まだだ。そもそも話すべきかどうかすら迷っている」
「まぁそうだよな。奴のことを思い切るまでに四年………か。死んだと思ったからこそ諦めもついたものを、今になって記憶も持たずに戻ってこられてもな。」
「俺達四人の過去は特殊だ。仮に記憶を失っていても、あの時の出来事を詳細に語って聞かせればあるいは思い出すのかもしれんが………それをする権利が、俺達にあるのかどうか」
「権利?」
 エンゾは頷いた。
「そう、権利だ。イザクは今、一介の冒険者として新たな人生を送っている。記憶を持たないからこそ可能なことだとは思わないか?」
「俺らだって冒険者だろ」
 ぶっきらぼうに呟くライに、エンゾはふっと笑った。
「お前は今の状態がいつまでも続くと思うか?」
「──────…」
「少なくとも俺はそうは思わない。いつになるか、どんな形で訪れるかは分からんが、この平穏はいつか終わる。…だからこそ、イザクはせめてあのままにしてやりたいんだ。」
「だが、どうだろうな………記憶を持たねぇってことは、組織の連中の前に知らずに顔を出す可能性もあるってことだろ? 見つかっちまったら終わりじゃねぇか。」
「それはまぁ、奴の幸運を祈るしかないな。」
「最後は運頼みなのかよ」
 呆れたように首を振るライに、エンゾは苦笑を浮かべながら壁から身を起こした。
「俺達が忘れたくても忘れられない過去をあいつだけは捨てることができたんだ。そのくらいのハンデはあってもいいだろう。──────話はそれだけだ。長居しちまって悪かったな」
「別に構やしねぇ。」
 きびすを返しその場を去りかけたエンゾは、ふと立ち止まると、何気ない口調で言った。
「そういえば、明日はマム訓練所四連戦だったか? 二日酔いだろうが何だろうがテツを引きずってでも連れて来いよ。」
「だーかーらー、なんで俺がテツの保護者扱いなんだっての」
「あいつがお前になついてるからだろ。どうせ美影は何も覚えてないだろうし、一から告白しなおせばいいだけなんだ。テツにそう言ってやれ」
「お前が言えよッ。俺ぁもう寝る、じゃあな!!」
 バタンと派手な音を立ててライがモグハウスの扉を閉める。エンゾは声を立てずに笑いながらゆっくりとその場を後にした。